【ニューヨークIDN】
アマンダ・C・ゴーマンさん(22歳)は米国の詩人で活動家。彼女の作品はマイノリティが米国社会で感じる疎外感や社会的な抑圧を、黒人女性の立場から見つめる詩作で知られる。
ゴーマンさんは、2015年には初の詩集『The One for Whom For Food Is Not Enough』を出版。19歳の時には、優れた若い詩人に贈られる全米青年桂冠詩人の称号を獲得している。2021年、第46代米国大統領ジョー・バイデン氏の就任式で自作の散文詩「私たちがのぼる丘」を披露した。
ゴーマンさんは1998年ロサンゼルス生まれ。教師をしている母ジョーン・ウィックス氏に、双子の姉と妹とともに育てられた。姉のガブリエルは現在映像作家で活動家になっている。テレビの視聴が制限された環境で育ったというゴーマンさんは、自身の幼少期について、母親に励まされて読書と文章創作に没頭した「風変わりな子ども」だったと振り返った。
ゴーマンさんは、大統領就任式典で詩を朗読した史上最年少の詩人として、2021年1月21日のジョー・バイデン氏の就任式で自らの散文詩を朗読した。この抜擢は、大統領夫人のジル・バイデン氏の推薦によるものだった。ゴーマンさんは、1月6日以降に、連邦議会議事堂乱入事件に触れるために詩の内容を変更している。また、就任式に先立ち、ワシントンポストの書評家ロン・チャールズ氏に、「私の詩が祖国の団結の瞬間を象徴してくれるよう、そして、私の言葉で祖国の新たな門出と時代に語りかけられることを望んでいます。」と語っていた。
バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式でゴーマンさんの朗読が終わった直後、出版予定の彼女の著書;初詩集「私たちがのぼる丘」と詩の絵本『Change Sings: A Children's Anthem』はアマゾンのベストセラーに躍り出た。両著書は2021年9月に出版予定である。
以下が詩「私たちがのぼる丘」の全文である。
日が昇ると、私たちは自問する、
この終わりのない陰のどこに光を見つけることができるのだろうかと。
私たちは損失を背負いつつ、海を渡らなければならない。
私たちは果敢に、窮地に立ち向かい、静けさが必ずしも平和だとは限らないことを学んだ。
そして、夜明けはいつのまにか私たちのものになっていた。
私たちは、国が壊れているのではなく、単に未完成であるのを知り、乗り越えてきた。
私たちは国の後継者だ。そこでは、奴隷の子孫でシングルマザーに育てられた痩せっぽちの黒人の少女が、大統領になることを夢見ることができ、そして気づけば大統領のために詩を朗読している。
もちろん、確かに私たちは洗練されていないし、清純からも程遠い。
完璧な団結を作ろうと努力しているわけでもない。
私たちが目指しているのは、意義ある一致を築くことだ。
人間のあらゆる文化、肌の色、人格、状況に尽くす国を組み立てるために。
だから私たちは目を上げる- 私たちのあいだに立ちはだかるものではなく、私たちの前に立ちはだかるものに。
私たちはその分断を終わらせる。未来を第一にするためには、まず私たちの違いを脇へ置かねばならないと知っているからだ。
私たちは武器を捨て、互いに手を差し伸べ合えるようにする。
誰も傷つくことなく、誰にでも調和があることを求める。
世界には、何はともあれ、これが真実だと言いたい。
私たちは嘆いたけれども成長したと。
傷ついたけれども望んだと。
倦んだけれども試みたと。
私たちは永遠の団結を得て、勝利した。二度と敗北しないからではなく、分断を二度と植えつけたりしないからだ。
聖書は私たちにこう幻を抱くようにと語りかける─
「人はそれぞれ自分のぶどうの木の下、いちじくの木の下に座り、脅かすものは何もない」(「ミカ書」4:4)。
私たちがこの時代に応えようとするのであれば、勝利は刃ではなく、私たちの作ったあらゆる橋にあるのだ。
それが、私たちがのぼる丘の約束だ─ただし私たちが果敢にのぼりさえすれば。
なぜならアメリカ人であることは、私たちが受け継ぐべき誇り以上のものであり、過去に踏み込んで修復する手段でもある。
私たちはこの国でともに生きるのではなく、この国を粉々にする力を目の当たりにしてきた。民主主義を後退させ、国を破壊することになる力を。その試みはほとんど成功しかけた。
しかし、民主主義は時として遅れを取ることがあるが、永久に打ち負かされることは決してない。
この真実を、信仰を、私たちは信頼している。
私たちが未来に目を向け、歴史が私たちに目を向けているからだ。
今はまさに贖罪の時代なのだ。私たちはその始まりを恐れ、恐ろしい時代の後継者になる準備ができていなかったが、その中で自分自身に希望と笑顔をもたらすための新しい章を記す力を見出した。
かつては「どうしたら悲惨な出来事に打ち勝つことができるだろうか 」と考えていたが、今では私たちは 「破局はどのようにして勝つことができるだろうか」と考える。
私たちは過去に戻るのではなく、未来に向かうのだ。この国は傷ついている。しかし全体としては、慈愛にあふれていて、大胆で、力強く、自由だ。
私たちは、不作為や怠惰が次の世代に受け継がれることを知っているので、もう恐怖に振り回されたり、邪魔されたりはしない。
私たちの過ちは子どもたちの重荷になるが、一つ確かなことがある。
私たちが慈悲と力を、そして権利と力を結びつければ、愛が私たちの遺産となり、子どもたちは生まれながらにして恩恵を得ることになるだろう。
だから、私たちに残されたよりも良い国になるようにしよう。
私のブロンズの胸が呼吸するたびに、この傷ついた世界を素晴らしき世界へと高めよう。
西部の黄金の丘から立ち上がろう。風が吹き渡る北東部から立ち上がろう。そこは我々の父祖が最初に革命を実現した場所だ。中西部の湖に縁どられた街々から立ち上がるのだ。日焼けした南部から立ち上がるのだ。立て直し、仲直りし、回復しよう。
私たちの国の隅々で、わが国と呼ばれるところどこでも、私たちの国のあらゆる場所で、多様で美しい我が国民は、打ちのめされながらも、美しくなっていくだろう。
日が昇れば、私たちは恐れることなく、その陰を飛び出す。
恐れを解き放てば、新しい夜明けが来る。
そこにはいつも光はあるのだ―
私たちにそれを見ようとする勇気さえあれば。
私たちがそれになろうとする勇気さえあれば。
(原文へ)
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